通訳案内士の国家試験に受かり、念願の資格を取ったものの、なかなか仕事が来ない――、このような相談をよく受けます。
有資格者のうち稼働してる人は6割で、なんと4割もの人は仕事をしていないと聞いたことがあります。もちろんその中には通訳案内士の試験を英検のように語学の資格として受験した人もいます。全員が通訳案内士になることを希望してるわけではありませんね。
有資格者なのに仕事がない?
それでも旅行会社に登録しても連絡がない、つまり仕事が回ってこない、これはよく聞きます。「英語のガイドは余ってるから?」とか「欠員が一人出ても、ウェイティングリストの分母が大きすぎるのでは?」ということなのでしょうか?
ではどうしたら早く仕事がもらえるのか?これは各社のアサイナーによっても違うと思います。が、ウェイティングリストの上の方に行くコツ、これはあるような気がします。
そしてあるとすれば、それは「即戦力になる人と見なされること」だと私は信じています。
即戦力になる人ってどんな人?
旅行会社にとって欠員が出たときに即戦力になる人、つまりすぐに使える人は有難いはずです。即戦力になる人、それは旅行業が丸っきり初めてではなく、何らかの形で関わっていた人でしょう。
「え~っ、でも自分はサラリーマンだったし」「私は全く別の職種だったから」ということなら、通訳案内士の下積みや見習いとしてアシスタント業務を少しでもすることをお勧めします。
新人が100人いたら、アシスタントの経験のある人は全く未経験の新人ではなく「インバウンドの経験値のある人」と私なら見なします。
アシスタントの仕事内容
アシスタント業務は、外国語を使用して海外のお客様にスポット的なサービスをします。つまり「わざわざガイドさんにやらせるまでもない仕事」です。
例えば
空港でのミート
空港のセンディング
ホテルのチェックインのヘルプ
食事の案内
ツアーデスク
バスの配車
新幹線の乗せこみ等です。
私も通訳案内士の資格を取る前はアシスタント業務をかなりこなしました。
そしてそれらの経験が通訳案内士の資格を取った時にとても有利になりました。よくアシスタントをした旅行会社からは、面接で「あら、うちの●●のお仕事してくれてたのですね」と言われました。別の会社も「○○大会の仕事、うちも〇〇県に40日も行ってましたよ」「△△クルーズ、あの時は天候が最悪だったよね」等の会話が弾みました。
またアシスタントは観光の案内こそはしてないけど、通訳案内士の仕事の一つでもある旅程管理の観点から言うと経験者とみなされます。
結果的にガイディングの練習になる
そしてアシスタントの具体的な業務内容からして、ガイドの訓練になるような事がたくさんあります。特に大勢のお客様にまとめてご案内をしなくてはならないような仕事はアナウンス能力が鍛えられるので進んでやりましょう。
例えば、バスのセンディング業務ではバスに乗りこんでるお客様に向かって
「このバスは成田空港行きです。羽田に行かれるお客様はこの次のバスになります」
「もう出発しますがお忘れ物はないか今一度ご確認ください」
「鍵を返してないお客様はいらっしゃいませんか?」
等のアナウンスメントを誰かがしなくてはなりません。
そんな時は進んでやりましょう。わかりやすく、大きな声で、失礼のない言い回しを心掛けて経験を積んでおけば、通訳案内士としてデビューする時、特にグループのご案内はラクになります。
そしてよく新人ガイドさんが言う「グループは怖いので私は個人のお客様でいいです」とはならず、最初からエージェントに「個人もグループも、両方やりたいと思います」と言えますね。これも旅行会社にとっては「使いやすい人」となるので一石二鳥ですね。
資格を取る前からやっておけば…
よく、通訳案内士の資格を取ってからアシスタントをやるのは「まるでガイドの仕事が来ないみたいでいやだ」と言う人がいます。プライドが許さないようです。
なのでこれから受験する人は、通訳案内士の受験勉強をしながらでもいいのでアシスタントの仕事をすることをお勧めします。受験勉強を始める前でもいいと思います。別のお仕事をされてる人は有給休暇を利用したり、土日だけでも出来る仕事もあります。
なんと二次試験の対策に⁉
アシスタントはガイディングをしないけど、でもお客様から様々な質問を受け、それに対して説明をしなくてはなりません。
例えば新幹線の切符を取ってあげる仕事では「10時台はすべて満席です。11時台なら4名空いてますが、昼食時の移動となります。食堂車はありませんが車内でお弁当を食べるという文化があります」などと説明してあげれば親切ですね。
またツアーデスクにいるとお客様から「今夜の夕食はフリーですが、焼肉としゃぶしゃぶのどちらにしようか迷っています。食べやすいのはどちらですか?」と聞かれます。するとアシスタントは焼肉としゃぶしゃぶの違いを説明しなくてはなりません。
そしてそれは一方的に説明するのではなく
「両方お肉料理です。使用するお肉もほぼ同じです。が、お客様自身はお肉を焼くのと茹でるのではどちらがお好みですか?というのは焼肉は…」など、お客様とコミュニケーションを取りながらご案内する、これはもう基本です。
二次試験で生きた経験値
私が通訳案内士の二次試験を受けた時、試験官がお客様の役で私がガイドとして色々な質問を受けました。そんな時にアシスタントの経験があってよかったです。
外国人女性の試験官が
「世界遺産を見に行きたい。どこがお薦めですか?」と聞いてきました。
私は丸暗記してる日光などを説明すればよかったのでしょうが、わざと「世界遺産には文化遺産と自然遺産があります。一か所しか見れないのならどちらをご希望されますか?」と聞き直しました。すると女性の試験官の顔が嬉しそうになり、日本人男性試験官も「おっ!」という感じで何かを書き留めました。
お客様に聞きなおすと何が出るかわからないという危険があります。「自然遺産がいいわ」と言われてしまえば丸暗記した日光はもう使えません。なので聞き直すのは勇気がいることなのです。
が、通訳案内士の適性を見る二次試験では暗記したことを披露する人よりも、お客様の意見を尊重する姿や、お客様のご意見や希望によってさまざまな回答を出せる人の方が試験官の心が動くのだと私は思います。
「持っている知識をお客様のご希望や状況によって出し入れが自由にできるガイド」である事を試験官に見せてほしいし、実際に仕事についてからもその姿勢はお客様に対しても変わらないのだと思います。