お客様をご案内する予定の寺社、博物館、駅、レストラン、ホテル等の下見は重要で、これを怠って大失敗する場合もあれば、長年の勘でどうにかやり過ごせる場合もあります。が、お客様に質の高いご案内を提供するためにやはり下見は必要ですし、何よりもガイド自身も安心だし、ガイドの案内にも自信が表れると思います。
そんな中、私が一番に力を入れてる下見は「動線」です。お客様をご案内しながら実際に通る道順です。または「導線」と言ってもいいですね。お客様を導く順路の確認です。
🔹導線を間違えると大変なことに!
観光中よりも注意が必要なのは移動日です。荷物を持ったお客様をぐるぐる歩かせると、勘のいい方なら「ガイドが道を間違えた」と気づきます。さらには「このガイドは道を知らない」となり、そして「今回のガイドは準備不足である」との評価につながります。
お客様と仲良くなっていたり信頼関係を築いていれば少しのミスは問題ではないのでは?と思うかも知れません。お客様も笑ってくださいます。しかし、長年やっていると〝初めてお会いしたお客様が既に怒ってるケース”ということがまあまああります。お客様が何らかの不満を持ってるところに私がガイドとして着く場合ですね。そんなお客様をぐるぐる歩かせたりするのは避けたいところです。
先日、金沢から新幹線で到着するお客様を東京駅のホームでお迎えし、都内のホテルにお連れする仕事がありました。22名様のグループでしたので東京駅からホテルは専用観光バスがあります。東京駅到着は17:52です。私は東京駅に1時間以上早く行き、下見を開始しました。コロナで久しぶりの東京駅は事情も変わってだろうし、私自身もコロナのおかけで2年ぶりのお仕事となりましたので忘れてることもあります。それに初日の移動で失敗すれば翌日からの観光が精神的に難しくなることもあります。
今回お客様が乗車されるのは6号車、まずは降りてらしたお客様をどこに集めるかです。22名を一か所に集めて最低限のことをお伝えしなくてはなりません。幸いキオスクの前に何もない広めのスペースがあります。そこに決めました。
次に下りエスカレーターの場所。これはとても大事です。大きなスーツケースは金沢から送ってあります。が、お客様はボストンバッグやガラガラ引くタイプのトランクなどを持ってることが多く、中にはかなり重いこともあります。なのでなるべくエスカレーターを利用します。
喫煙所、これは意外と大事です。が、それはファミリーなど個人客の場合ですね。団体ならば他のお客様を待たせるからとの理由でご案内しません。喫煙所と、そしてトイレ!これもこちらからはご案内しないが、一応急に発生するときのために場所は認識しています。
下りのエスカレーターを降りた後、どの改札を通って外に出るか、これも最短を確認します。当然一つの改札を抜けて外に出られるルートが望ましいです。新幹線の改札と一般改札の2か所を通るルートもあり、まあ人数によってはこちらでもよいのですが、一回で外に出れるに越したことはありません。これに関しては失敗談があり、下見をしなかったガイドがお客様を見失うという事がありました。こちらは後ほどお話ししますね。
次に道順です。実際にお客様と歩くと動線を確認します。今回は団体なのでなるべく曲がる回数は少ない直線経路の方がいい。それに迷子は絶対に出してはなりません。大型バスの駐車場は東京駅から少し離れた銀座寄りにあります。お客様によっては歩きながら「なんでこんなに歩くわけ?」「駅の敷地内にバスは来てないの?」と不満を言う方も…。みんながみんな、ニコニコしてるよい方であるとは限りません。本来はよい方々なのに旅も後半になり疲れてきてるお客様もいます。
大型観光バスの駐車場までの動線を確認したら、今度は駐車場そのものの確認をします。
-トイレ…コロナで閉ってないか
-喫煙所はあるか
-支払い場所は(機械か?または対人か?機械なら千円札の用意をする)
トイレも喫煙所もこちらからは案内しないのですが、トイレは突如発生しますし、何人かがトイレに行けばタバコ吸いたいと言い出すお客様もいます。
という具合に、東京駅のお出迎え業務に関しては、ホーム上での集合スペース、下りエスカレーター、最短の改札、駐車場までのルート、駐車場の使い勝手などなど、最低限の下見はこのくらいでしょうか?私は現在はこれらを逆ルートで下見します。駐車場から始まり、反対方向に歩き、改札、エスカレーター、集合スペースという感じで、まあ何年もやってるので問題ありません。が、新人ならばシュミレーションで実際のお仕事を想定して歩く方がいいと思います。かかるお金は東京駅の入場券代くらいですね。それは自腹となり、もちろん旅行会社は下見代は出してはくれません。
それと実際に下見で歩いておくと、本番で何かあって迂回しなくてはならなくても、一度現場を見て歩いているので迂回しても正しい方向を維持する事は割と容易です。脳が場所と方向と位置関係を把握してますので。「なぜ迂回?」と思うかもしれません。が、町は生きています。乗るはずのエレベーターが故障中だったり、雨漏りして通路が閉鎖等、「え?昨日は通れたのに⁉」という場面は多々あります。
🔹本番では下見の成果を発揮させよう!
新幹線を降りて一時的に集合するスペース、これはとても重要です。他の日本人の乗客の邪魔にならない場所でなくてはなりません。事情が分からないお客様が日本人から注意されるなどという状況は避けなくてはならないのです。
そこですることは…、
①全員揃ってるか人数確認
②社内に忘れ物がないか…この時点で車内に戻れば回収できるが、ここから移動すると携帯電話でも問合せに数日かかる。
③新幹線のチケット確認…団券ならガイドが受け取り、個札なら下の改札で慌てないためにすぐに出せるポケット等に移してもらう。
④軽い自己紹介と注意事項…「私はこの旗を持って先頭ゆっくり歩きますが、旗はホーム上では長く伸ばすことは禁止されています。前の人を見失わずに来てください。改札のところで再集合するので取り合えずそこまでお願いします」
この程度の簡単な説明をして、トータルで1-2分です。これをしないと途中で、忘れ物をしたと言って走り出すお客様がいたり、おしゃべりに夢中で前の人を確認せずに歩いて迷子になったり、新幹線の個札がないと大騒ぎになったりします。
🔹臨機応変に!
イレギュラーであればお客様は協力的です。エスカレーター封鎖の時は「あちらにエレベーターがあるか見てくるので一瞬こちらでお待ちください」と言って走って見に行くことも有効です。急いで戻れば、お待たせするのは1-2分で済み、「エレーベーターあります!こちらへどうぞ」と言えばお客様も「まあ、ありがとう」と喜んでくれます。外国の方がイレギュラーには寛容なのは、日本よりもイレギュラーが当たり前の国から来てるからですね。
🔹つまり!
お客様をお待たせしたり迂回したりする事は旅行中1度や2度はどうしてもあるので、その他のところではスムーズになるように下見をする、ということなのです。
🔹下見を怠った失敗談
新幹線で到着するお客様68名様をバス2台でガイド2人が都内のホテルまでお連れするという仕事が大昔にあった。もう一人のガイドは私より年上、だがガイドキャリアは同じくらい。とりあえず先輩を立てて先を歩いてもらい、私と私のグループはそのあとに続いた。が、なんと先輩が新幹線の改札と八重洲の一般改札を抜けるという2つの改札を通るルートを行き始めた!「えっ、先輩、もしや下見してないの?」と思ったが、前のグループは33名の長蛇の列で、気づいたとき先輩はもう改札を出て歩いていた。団体乗車券も先輩が持ってたので私もそのルートを行くしかない。日曜日の夕方で駅は大混雑!案の定、先輩のグループの2名が前の人を見失い、曲がるところを直進してしまった。が、異変に気付いて戻ったところに旗を持った私がいたということだった。前のグループの添乗員(本国から同行したツアコン)は自分のグループの一番最後を歩いてたが、まったくそのことに気づいてなく、私のグループの添乗員から「お前何やってんだ⁉」とピリピリムードになった。
私は「改札一か所通過するだけで外に出て直線で駐車場に行けるルートがある」ということを、後から先輩に伝えようか迷った。が、年上だし、そのグループは問題山積みでそれどころではなくなってしまった。しかし考えたらこれは下見したかどうかの問題ではなく、知ってるかどうかの問題なのかな?でも下見では、最短の改札を探したり駅員に聞いたりするので、やはり下見は情報の源なのだと思う。