G-ZRD88RV0FB 自分のバスに同乗する新人ガイドさん。見てほしいのはオペレーション(ツアーの回し方)と旅程管理です。 - 通訳ガイドのオモテナシ奮闘記 by ばるばら

自分のバスに同乗する新人ガイドさん。見てほしいのはオペレーション(ツアーの回し方)と旅程管理です。

通訳案内士

通訳案内士の資格を取った友人が、デビュー前に見習いとしてあるベテランガイドのバスに乗せてもらった後、すっかり自信を無くし「私はあんな風にはできない」「私には向いてない」と言い出した。

研修の一環としてベテランガイドのツアーに乗り、ツアーの回し方などを一通り見る。
こういう経験をさせてくれるエージェントは有難い。

なのに自信を無くした?
一体どんな大変なツアーだったのか?
客が想像を絶するくらいにうるさすぎた?
とんでもないトラブルがおきたのか?

ベテランガイドのツアーに乗る目的は何か?

聞いてみると「見習いとして乗ったツアーのガイドさんはエンターテイナーだった。
お客様を乗せて笑わせていたという。そして「私はあんな事はできない」と…。

すっかり自信を無くした彼女。そのベテランガイドさんは男性で年のころは中年。
個性が強烈だったのか、またはその人の仕事ぶりがあまりにも見事すぎたのか?

いずれにせよ、エージェントが彼女にこのような機会を与えたのは、旅行業の経験がない彼女にツアーの回し方、つまりノウハウを見てほしかったからだと思う。

つまりツアーを運営すること。これが第一で屋台骨。

そして多くの新人が心配する「観光地でお客様に何を説明するか」だが、まず考えてほしい説明はツアーを回す上で必要なこと、つまりお客様にご理解とご協力して頂かなくてはならない事や注意事項等である。

オペレーションと旅程管理

友人が研修で乗ったツアーのそのガイドさんは、普段ご自分がしてる案内を新人に包み隠さずに見せてくれたのだ。旅行会社も、そのガイドと同じようにしろと言ってるのではない。見習いとしての同乗で一番学んでほしいのはオペレーション(ツアーの回し方)と旅程管理の強化の意識である。

具体的にどんな話をしたか、とか、どんな小道具を使ったとかは二の次である。オペレーションと旅程管理を学んだのなら、あとは一人立ちしして「あなたのキャラであなたの好きなようにツアーを運営すればよい」

旅程表こそが「契約書」

お客様の旅程(アイテナリー)に書かれてるものはすべて現場で提供されなくてはならない。
旅程表こそがお客様と旅行会社の「契約」となる。
旅行に含まれてる観光箇所や食事、ショーなどはツアーオペレーターにより手配されている。
その手配されたものが現場で正しくサービスされるかを管理するのがガイドの仕事である。

が、こんなことを言うと
「そんなのは旅行会社の仕事では?」
「それは添乗員の仕事じゃないの」
「私は外国語でお城や仏像の説明をしたい」
という人がいる。

何も知らない人がそう思うのはごもっともである。
旅行業が初めてな人は「えーっ、ガイドがそんなことまで?」と驚く。

手配する旅行会社と遂行するガイド

が、手配するのは人間だし、間違いもある。しかし間違いは時として契約違反にもなり、下手すると本国の旅行会社がお客様ともめたり返金騒ぎにまで発展することも。それを現場で防ぐのが現場を熟知したガイドの仕事だ。

手配の最終確認と現場での遂行、むしろ他人任せなんかできない。誰も信用するな。手配してると言って取れてないことは何十回とあった。私はすべて自分の目で確認しないと気が済まない。むしろそのくらいでないとガイドはできないと思ってよい。

旅程管理がいかに重要か、これはガイドになれば徐々に身についてくるのだが、一人立ちの一本目で失敗してはならない。なのでその辺をしっかり見ておくのがいいと思う。

手の内を見せてくれるガイドさん

ベテランガイドの中には「新人の研修で見習いとしてバスに乗せてもいいか?」とエージェントから聞かれると、意外と断る人が多い。断る理由として多いのが「私なんて…」という自信がないものから、「他人にお見せするほどの内容ではない」という謙遜型、さらには「苦労して得た手の内は明かしたくない」という人もいる。あるガイドさんは「案内の内容こそが我々の著作権であり、それを真似されるのはイヤ」という人も。

私自身はどうだろうか。新人さんが同乗する場合、私は出し惜しみせずいつもと同じ案内をする。それは完コピされたところで私と全く同じ案内をするのは不可能だと思うからだ。いくら完コピをしても絶対にその人の個性が追加され、判で押したように私と同じになるはずがない。

正解はない

ただ一つ強調するのは
「これは私のやり方で、正解ではない」「今日のこのお客様を見てこのやり方になった。明日はまた別のお客様になるので違うアプローチになることも考えられる」ということ。

正解なんてない。規定もない。
ベテランの模範演技を見てもそれはほんの一例であるということ。

自分の個性、カラーは自然と醸し出される

「見習いとして乗ったツアーのガイドさんはエンターテイナーだった。私はそんな事はできない」と言った友人に「エンターテイナーにならなくてよい。あなたの良さが最大限に生きるやり方をすればよい」と私は言った。

大事なのは
■お客様が適切なサービスを受け
 日本という国を楽しむこと
■あなたが輝いていて
 あなたの良さがお客様に伝わること
 
これらに限る。

ガイドもお客様も十人十色

我々日本人が海外旅行に行く時、現地の日本語を話すガイドさんにも様々なタイプがいる。

例えばある国で、北部担当のガイドさんはジョークが得意で面白い中年のおじさん、中部では博識でアカデミックな初老の紳士が来て、南部では若くてフレッシュで一生懸命なお兄さんが来たとする。それぞれの個性、キャラ、得意分野の違いで、それはそれで面白いとは思わないか。

三人が同じである必要はない、そもそもこんなことはガイドを目指した時点で明白なのだと思う。

無理して演じれば見破られる

私は日本のテレビで見る無理やり作ったようなキャラは苦手だ。その人の本心でない限り長続きしない。それがまかり通るのは現在の日本がメディアにコントロールされたチョロい世界になってしまったからだ。お客様が暮らす海外の国々では社会が日本以上に過酷なため「演じてる姿、無理して繕ってる姿」はかならず見破られる。

これは断言していい。営業スマイルや作った声色、無理やり上げた口角は滑稽でしかない。

日本の教育は1+1=2のように一つしかない正解を探すような教育で、その価値観でこの仕事をすると続かない。今やお客様も十人十色、いや千人千色。海外の教育では、各自がそれぞれの答えを出し、その答えを出した理論を明確にし、さらにその答えに責任を持つことなどに重点を置いた教育をしている。

そんな多様化しているお客様に対して、1+1=2の頭で接すれば、お客様を魅了するようなご案内は難しくなる。特に日本の近代史に関してはお客様の数だけ解釈がある。

同乗する上でのルール

さて、どなたかのツアーに同乗するチャンスをもらえたら、最低限のマナーだけ守って頂ければ問題はないと思う。以前、都内観光のバスの中でいびきをかいて居眠りをした旅行会社の新入社員がいて、お客様が「あら、この人私たちのツアーに来て騒音をバラまいてるわ」と嫌味を言われた。これはもう論外なのでここには書かない。

🔹録音していいか?
よくバスの中での説明を録音する新人ガイドさんがいる(らしい)。が、録音はしない方がいい思う。実は私はその経験がないのだが、録音されてると思うといつもの自分の話ができなくなる気がする。そしてお客様に100%のサービスをしたいのに同乗する新人に0.001%でも気を取られてしまうのは残念だと思う。

🔸メモを取っていいか?
これは正直いって仕方ないと思う。私はメモは気にならない。私も講義などに行ってノートを取ったりするのでそれと同じなのかと思う。が、同僚ガイドの中には「メモも取ってほしくない」という人も…。あるガイドはメモを取っていた新人に「メモを取らないで」と注意したという話を聞いたことがある。そんな彼女たちも、こっそりメモを取られれば防ぎようがない。

🔸何をメモる?
ツアーのオペレーションをメモするのか、ガイドの案内内容のネタ等の詳細をメモしたのか?これによっても変わってくると思う。そこは新人ガイドさんもご自分で考えればよい。よく人口やデータの数字まで書いてる人がいるが、そんな数字は自分で調べた方がいいのではあるまいか?ベテランガイドのデータは毎年更新してるとは限らない。

🔸データや数値は自分で調べるのが一番!
「川崎市は人口で日本第9位の都市」と何年も案内していた。が、先日気づいたら第6位になっていた!これには驚いた。恐るべし川崎市!いや、言いたいのは町も国も生きている生ものであるということ。

古いデータに頼ってはいけない。つまり他人の調べたデータなどを当てにせず自力で得たものは宝なのだ。もし新人ガイドが私の「川崎市9位」メモり、そっくりそのまま案内してたらアウトだった。

🔹黒子に徹するのがいい
新人が乗ってきたがために何かが変わるのではなく、我々ガイドが”いつも通りの仕事”ができればそれでよい。ただしこれは私の場合。あるベテランガイドから「人数を数えるのを手伝ってほしい」と言われれば数えてあげればよいのだと思う。言われなければ数えなくても、私の場合は構わない。

🔸いずれにせよ大事なのは…
「その人が乗ってきたがためにオペレーションが変わってしまった」
「やりづらくなった」ということがないように。

でしゃばるのもやめた方がいい。お客様からあなたに何かの質問が来たら「ちょっと待って下さいね、あなた方のガイドさんにまずは聞いてみましょうね」と言えば「あなたはガイドの●●さんをリスペクトしてますね」と高評価になるのだ。

団体も個人もツアー運営は同じ

団体も個人もオペレーション、旅程管理、説明、ご案内は同じだ。が、一般的に乗せてもらうツアーは団体のことが多い。もし乗ったツアーが団体で、ご自分のデビューが個人のお客様なら「団体のノウハウを少人数に置き換えて考えてみる」という作業をしよう。

🔹復習の意味で考えてほしいこと
-そのまま使えること
-変えないとならないこと
-追加しなくてはならないこと
-割愛してもいいこと
-乗り物の違いにより変わるアプローチ
-歩いて通るルートや説明する立ち位置

これらは自分で考えた方がよい。自分で考えるとデビュー戦で余裕が出る。
よく言ういっぱいいっぱいにならない。事故などのイレギュラーに気付くことができる。

大事なのは他人が作ったものでなく、自分で作り上げるという意識だ。

そして下見のチャンスがあれば是非その貴重な機会を無駄にせず、一日も早く一人立ちできるようその経験を生かしてほしい。下見をさせて頂いたガイドさんこそ最高にご縁のあるガイドさんである。そのご縁を大事に今後も仲良くすれば、いつかピンチの時に手を差し伸べてくれると思う。

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