見習いの新人をツアーに乗せたら…。
浅草を観光してる時のこと。
浅草寺の説明を終え、仲見世で自由時間にして
お客様と別れた時に新人さんが
「ばるばらさん、五重塔の説明ですが
5という数字が自然界の五大元素、地、水、火、風、空
であるということを説明しないんですね」と言われた。
私は「はあ?」と内心声を上げた。
優先順位は何かということ
私「いい質問です。
今日のお客様の性質上、それと時間配分を考えると
それは今日じゃなくてもいいのだと判断しました。
このグループは京都までご案内しますので
その事を説明する時間はまだまだあるんでう」
…とやんわり答えた。
たしかに五重塔の5という数字は自然界の五大元素を表す。
これは調べれば書かれていること。
が、今日のオペレーションではそれほど重要ではない。
必ずしも説明しなくてはならないことではないし、
五重塔を説明する上で、今日のこの状況だともっと大事なことがある。
お客様にとって有効な情報とは
この日の都内観光は、日本の観光の初日であり
五か所の訪れるうち、お寺と神社の両方が含まれていた。
なのでまずは神道と仏教という二つの宗教があるということ
その理由、神仏の違い、神社と寺の違いなどを
初日の今日はまずは簡単なところからお判り頂きたいのだ。
それが判ると自由行動の日の街歩きも理解力が違う。
通りかかった宗教施設が寺か神社かすぐに判るようになる。
このグループ、実は翌日が終日自由行動なのだ。
が、新人さんは余裕がないし、ツアーの全体が見えていない。
今日の案内の仕方はほんの一例だということで
まずは黙って付いて来て欲しいというのが私の本音だ。
知識はどんどん増えていく
新人さんは五重塔については仕入れたネタを暗記した段階だと思う。
五重の塔について5つくらいの情報しか持ってないので
5つ全部を披露しないと気が済まないか、逆に間が持たない。
が、何年もガイドしてる私は
五重の塔について100くらいの情報を持っていいる。
が、時間的には100のうちの7つしか説明できなので
その日のお客様の感じと時間の押し具合で7つを選んだのだが、
その中に五大元素は入っていない。
五重塔の「5」が自然界の五大元素の数であるということは
100個の情報のうちの1にしかすぎない。
大事なお話であるのは確かだが、今日のこの状況では不要となる。
何が何でも説明したいのなら…
が、五大元素があなたにとってそんなに大事で
もう絶対に知って欲しいといという情熱を持っているなら
一生懸命に説明すればよいだけの話だ。
たくさんある情報の中から、何を説明するかを吟味するのも
各ガイドさんの個性だと思う。
私は欧米と日本の違いを話すのが好きで
数字に対する概念の違いということで
長距離移動日に数字の話を、様々な例を挙げて説明する。
その時にこの五大元素の話をするのだが、
というのはお客様の国によっては空と風が同じと見なされ
四大元素の国もあるからだ。
都内観光のあわただしい日に
「ヨーロッパでは4大元素だけど…
空と風は一緒でしょう?
なぜ5なの?」と質問が出るのは確実だ。
が、ここは実はそれほど時間をかけたくない所でもある。
そしてこのことは新人さんにもお伝えした。
五重の塔
時間がない今日の都内観光、五大元素よりももっと
私には説明したいことが山ほどある。
①五重塔の役割
②そもそもパゴダとは?
③ストゥーパとの違いは?
④他の仏教国のパゴダとの違いは?
⑤日本ならではの五重塔
⑥構造に驚き!
⑦すぐれた耐震性!
⑧スカイツリーとの関係
特に重要なのが①で、何の役割かということ。
また五重塔はお寺の施設であることと、その理由。
五重の塔はPagodaという単語を使って説明する。
それに対しストゥーパはサンスクリット語。
つまり①を話すと②と③も話してることになる。
④は、お客様はすでに世界中を旅行してることが多く、
タイやスリランカで見たストゥーパと五重塔が同じであること、
国によってなぜ形がこんなにも違ってしまったかも重要だと思う。
⑤~⑧はセットとなる。
というのはお客様の目の前にスカイツリーがあり、
自由行動の日にスカイツリーに行くお客様も多い。
なのでスカイツリーが五重塔と同じ構造で作られていて、
「もし行かれたら必ず芯柱を見てきてください」とお伝えする。
時間が余ってたら
時間が余ってる場合、五大元素のことを話してもいい。
が、時間があるなら私は五重塔、三重塔など、
日本では層数が奇数であることを話す。
もちろんその理由も。いつも理由は欠かせない。
そして五大元素の説明が有効な場所がある。
それはムードラ(印相)の説明で、特に仏像の話をするとき、
例えば大仏観光の日などに、到着する前のバスの中で
仏像の手や指の形の意味、古代インドで始まったムードラと
アーユルヴェーダとの関係などをゆっくりと説明することにしている。
お客様の中にインドや東南アジアを旅行した人は多いので
この話は結構お客様が乗ってくる。
その時に「五重塔の5もここから来てると言われています」
と言ってもいいと思う。
時間がないとはどういう事か
その日の旅程で、その施設の観光時間がどのくらいか?ということ。
浅草で2時間ならたっぷりにも思えるが、団体だとそうでもない。
浅草寺内と境内の説明に40分、
その後の仲見世の自由時間に40分、
観光バスまで歩くのに往復15分、
急なトイレなどのために10分の予備(これ大事!)
これで105分。が、残りの15分がかなり重要で
仲見世の自由時間の後、再集合時間を設定するが
必ず遅れる人がいるのでそのための時間となる。
ぴったりじゃん!と思うかもしれない。
が、この日は朝のホテルの集合が悪く
なかなか揃わず、出発が15分も遅れた。
最初に行った明治神宮でも写真タイムの10分間に迷子が出て
20分間のロスタイムとなった。
その後の皇居では、炎天下の暑さで歩くのが遅く、
飲み物やトイレに時間を取られてしまった。
最近は熱中症の問題があるのでお客様を急かすことなく
少し好きなようにさせておいた。
幸いランチのレストランのサービスが速かったので、
1時間20分取ってあったのを60分で切り上げることができ、
午前中のロスタイムをいくらかカバーできた。
が、その後の渋滞もあり、けっきょく浅草観光は
当初の120分から90分になってしまった。
時間通りに行くことはまずない
このように大都市の観光というのは
施設の込み具合、道路の渋滞、お客様のメンツ
お客様の時間の概念、お客様の興味などで
時間が遅れることがあり、むしろ時間通りなんてことはめったにない。
また最初から「浅草観光が60分」という(←団体は不可能)
現場を知らない人が組んだ目を疑うような旅程もある。
なので限られた時間内でいかにいい説明をするか
お客様の心に残るような説明になるかは
各ガイドの工夫とパフォーマンス力によるものが大きい。
たくさんの情報をインプット出来たら
いかに上手にアウトプットできるかが重要で、
新人さんでもその辺の調整が上手な人はいる。
そんな人を見ると、ああ、やはりセンスなのだな、と思う。
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